日本移植者協議会ニュース
臓器移植法改正 その後の経過と課題(2010/03/15)

 昨年7月13日に臓器移植法の改正案が成立し、同月17日に公布されました。施行は、親族への優先提供が半年後の1月17日、全面施行が1年後の7月17日となりました。
現行法が成立した時は、施行まで4ヶ月しかありませんでしたが、今回は、1年あり十分のような感じがするかも知れませんが、検討し決めなければならないことが多く、実際には、かなり厳しい日程です。
法施行までに取り組まなければならない課題として、
 1,厚生労働省臓器移植委員会における施行規則、ガイドラインの作成
  親族への優先提供について
  臓器提供側の課題として
  ・小児の脳死判定基準
  ・ 提供施設認定の拡大及び脳死判定支援チーム派遣
  意思表示かカードの様式,
  国民への制度の周知,
  ・ 親族への優先提供,
  ・ 臓器提供意思が不明な時は、家族の承諾で臓器提供が可能
  ・ 拒否の意思表示には自署の書面も必要がなく、年齢制限もない。
 2,臓器提供施設の体制整備
 3,移植施設の体制整備(小児移植及び多重移植)
 4,日本臓器移植ネットワークのシステム及び体制整備
  ・ コーディネーターの増員と教育
  ・ インターネットによる意思登録システム
 5,臓器提供者家族のケアー及びフォローの体制
  ・ ネットワークにおけるケアー及びフォロー
  ・ 常時ドナー家族のケアー及びフォロー機関の整備
 6,一般普及啓発,  
 これ以外にもまだまだあると思いますが、主な項目だけでもこれだけあります。また施行規則とガイドラインは、5月中旬までに案を作成し、パブリックコメント(1ヶ月)を経て、6月中旬に最終決定しなければなりません。実際には、周知期間が1ヶ月では、あまりにも短く7月17日までに、提供施設や移植施設の体制整備をするのは、非常に難しいと思われます。
 このように時間が限られている中、厚生労働省の臓器移植委員会が新しく委員も入れ替えて初めて開かれたのは、法改正後2ヶ月を経過した9月15日でした。そこで今後の検討課題や作業の取り組みについて検討され、「意思表示・小児からの臓器提供等に関する作業班」「普及啓発等に関する作業班」とドナー適用やレシピエント選択基準について検討する臓器ごとの七つの作業班が設けられました。これに加えて小児脳死判定基準や臓器提供施設の体制整備(脳死下での小児臓器提供を行う施設としての要件等)に関しては、厚生労働省科学研究の班で議論することになりました。
 親族への優先提供については、施行が半年後となっており、まずこれから議論されました。議論になったのは、まず親族の範囲でした。兄弟も含めた2親等とする意見も出され検討されましたが、国会における改正法提案議員の答弁を尊重し1親等と配偶者に限ることになりました。配偶者については、婚姻届が出されていない事実婚は除くことになりました。また養子も裁判所の許可がいる特別養子縁組のみを認めることになりました。
*特別養子縁組:原則として6歳未満の未成年者の福祉のため特に必要があるときに,未成年者とその実親側との法律上の親族関係を消滅させ,実親子関係に準じる安定した養親子関係を家庭裁判所が成立させる縁組制度です。そのため,養親となる者は,配偶者があり,原則として25歳以上の者で,夫婦共同で養子縁組をする必要があります。また,離縁は原則として禁止されています。
 欧米諸国では、婚姻届を出さない事実婚が多いので、また日本は不思議な国と思われるかも知れませんが、未だに夫婦別姓が認められていない国ですから、臓器売買を防止するためには、養子同様に仕方がないかと思います。この記載は、「親族優先提供」と書く以外に個人名を書いても良いことになりましたが、移植候補者が複数いる場合は、親族全体への優先提供とみなし医学的に決定することになりました。
 「親族優先提供が自殺を誘発する」のでは、との議論があり、優先提供を目的として自殺をした方からの親族への優先提供は行わないことになりました。この場合や医学的に親族に提供できない時も家族が承諾すれば、親族以外への臓器提供は行なわれます。また「◯◯さん以外には提供しない」との限定した優先提供意思を示した時は、優先提供のみならずその他の臓器提供も行なわないことになりました。
 現時点では、まだカードの様式は最終の結論は出ていませんが、親族優先提供は、例外的なものであり、誰もが安易に表示出来るようにすべきでないとの考えに基づき、インターネットからの登録を推奨し、その際は、注意事項や前提条件を理解した上で登録するシステムになりました。それでも施行後の一ヶ月の登録者の4分の1が親族優先提供の意思表示をしているようです。実際には、ネットワークにレシピエントとして登録している家族しか親族優先提供は行われないわけですから、殆どの人が該当しないことになります。これによりコーディネータは、レシピエント登録されている人の中に該当者がいるかどうか、現在の家族だけでなく、過去の婚姻についても調べなくてはならないケースもあり、短時間での確認作業がまたひとつ増えて大変だと思います。なお親族への優先提供は、現行法と同様に書面による意思表示として取り扱われ、15歳以上が有効となりました。
 親族への優先提供は、1ヶ月のインターネットによるパブリックコメントを経て1月17日から既に施行されています。現在配付されているカードであっても空欄に「親族優先」また個人名と優先と記入することにより意思を表示することが出来ます。
 7月17日以降は、健康保険証やカード、運転免許証の裏面に臓器提供意思表示欄が設けられることになります。3年から5年くらいかかりますが、ほぼ国民全員が意思表示カードを所持することになります。いま一般に配付されています意思表示カードは、新しく説明パンフレットと一体となったものに変る予定です。勿論健康保険証やカード、運転免許証も説明パンフレットと一緒に配布されることになります。法改正により書面による意思表示が必須ではなくなりましたが意思表示の重要性は変らないと言うか「拒否」や「親族優先」の意思確認のためにもより重要となりました。これからしっかりと説明書を読んで理解した上で意思表示をしてもらうようにしなければなりません。
 現在、厚労省関係では、月に各2回程度、臓器移植委員会と作業班の会議が開かれて、ガイドラインの内容などを議論しています。ガイドラインは、5月中旬から1ヶ月間のパブリックコメントを経て6月中旬に最終決定されます。提供施設にとっては、その後施行まで1ヶ月しかなく、院内でのシュミレーションなども行わなければならず、体制整備には、時間が足らないように思います。また一般国民への周知もしっかり行う必要があります。今この点について「普及啓発等に関する作業班」でも議論しています。
 この厚労省の委員会における議論とは別に、臓器移植関連学会協議会において「脳死下臓器提供の体制整備に係わる委員会」を立ち上げ、10月から議論を重ねています。
*臓器移植関連学会協議会:日本移植学会を初め、日本医師会、日本外科学会、日本救急医学会、日本小児科学会など臓器移植に関わる35の学会及び研究会で構成しています。
 ワーキング1、2のチームに別れ、関連学会から専門家が委員として参加し1月22日に「臓器移植法改正後の移植医療の体制整備に関する提言」としてまとめ、厚労省臓器移植対策室と臓器移植委員会に提出しました。私は、主にワーキング2の委員として「ネットワークを含む体制整備について」関わりました。その後、ワークング3を立ち上げ小児についても盛り込んだ提言をまとめる作業を行ない。3月8日に改訂版の提言として、再度厚労省臓器移植対策室と臓器移植委員会に提出されまました。是非この提言を盛り込んだガイドラインにしてなければならないと思っています。
「臓器移植法改正後の移植医療の体制整備に関する提言」(日本移植学会ホームページ
 追加情報として、平成22年度の移植対策関係予算が昨年の12月25日に決定され、臓器移植対策事業費(日本臓器移植ネットワーク)は前年度より約3億円増額され807,778千円になりました。特にあっせん事業従事者の15人の増員が認められました。(うちコーディネーターは10名)
 残念ながら診療報酬としてコーディネーター料が認められませんでしたので、23年度につきましてもコーデネーターの増員は、国の予算で手当しなければなりません。私たちは、引き続き予算増額を厚労省および関係機関及び関係者に強く訴えて行かなければなりません。(文責大久保通方)


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E-mail:nichii@guitar.ocn.ne.jp

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