日本移植者協議会ニュース
臓器移植法改正による変化と今後の課題(2009/12/10)

 去る7月13日に、新たに臓器移植法が12年ぶりに改正されました。これは一部の文言の改正ではなく、臓器移植法の根幹に関わる改正でした。その変更箇所表にまとめてみました。

脳死

脳死臓器提供の要件

親族への臓器優先提供

前臓器医移植法

本人が意思表示カード等の書面で提供の意思表示をした場合に限定して人の死と認める。

本人の生前の書面の意思表示があった場合、家族が同意したときに認める。

認めていない

改正臓器移植法

脳死を人の死と認める。             *本人や家族が臓器提供に関わる法的脳死判定については拒否できる。

1,年齢制限なし

2,本人の生前の書面の意思表示があり、家族が同意したときに認める

3,本人の生前の書面の意思表示のない時、家族の書面による承諾で可能。

認める

 国会でも論点になりましたが、いままで脳死を臓器提供する時に限って人の死としていましたが、今回の改正で脳死は、人の死であることが法律として規定されました。ただし海外と同じように、医師が脳死判定をし、死亡宣告することは出来ません。脳死は人の死であるが、家族が脳死判定を承諾した時のみ法的脳死判定を行い、死を宣告できる規定になっています。もう一つ大きな改正点は、臓器提供に際し、本人の書面による意思確認が必ずしも必要がなくなり、本人の意思が書面等により確認できない時は、家族の承諾により臓器の提供が出来るようになったことです。これにより15歳未満での臓器提供が可能になりました。これに加えて、海外でも例が少ないですが、親族への優先提供先の指定が出来るようになりました。まだガイドラインが明らかになっていませんが、国会答弁からしますと一親等(親子間)と配偶者に限って認められることになりそうです。これ以外では、意思表示の普及と言う意味から運転免許証と健康保険証に臓器提供の意思表示欄が設けられることになります。以上が今回の臓器移植法の改正に概要ですが、これによって日本の移植医療がどの様に変り、そしてその課題について、以下に述べます。

提供拒否の権利の保障

  • 改正法では、家族の承諾で提供できるため、本人の拒否の意思表示の確認が非常に重要となる。改正法では、健康保険証と運転免許証に臓器提供意思表示欄を設けるとなっているが、今後は、より多様な意思表示の仕組みと確認の確実性を上げる方策の検討が必要。
  • ネットワークは、いままでインターネット登録の普及に努めているが、今後は、拒否を登録する新たなシステムが必要になる。
  • 拒否の意思表示には自署の書面も必要がなく、年齢制限もない。そのことを国民へ周知する必要がある。

ドナーコーディネーターの養成と増員

  • 脳死臓器提供では、諸外国の体制から推測すると多臓器提供数とほぼ同じ数のドナーコーディネーターが必要となる。
  • 現在は、ネットワークに21名、専任の都道府県コーディネーターで脳死臓器提供に対応できるものも加えても約30名しかいない。
  • 平成23年度からは、少なくとも80名体制にし、その後も臓器提供の増加に合わせ増員をしなければならない。
  • またネットワークコーディネーターだけでは、対応することができない。都道府県コーディネーターの質の向上を図り24時間対応とし、加えて都道府県の境を越えてブロック内での活動を認め、互いの連携を図る。
  • 脳死臓器提供の意思が家族の承諾でできることになるため、ドナー家族の心の負担が増加すると考えられる。従って、提供家族の意思を汲み取ることのできるドナーコーディネーターの資質を維持しながら、今後予想される臓器提供の増加に応じた、増員をしなくてはならない。
  • 今後は、ネットワークコーディネーター、都道府県コーディネーター、院内コーディネーターを同じ理念に沿って一環して教育する恒久的な教育機関が必要となる。

臓器提供者家族に対する体制整備

  • 臓器移植において、ドナー、ドナー家族が讃えられ尊敬される社会の形成なくして臓器移植の発展はない。
  • 脳死臓器提供の意思が家族の承諾でできることになるため、よりドナー家族の心の負担が増加すると考えられる。このドナー家族をケアー、フォローするために専任のコーディネータを設置する必要がある。まず少なくともネットワークの各支部1名ずつ配置する。
  • ドナー家族のフォローは、短期的にはネットワークがあたるが、ネットワークが関わらなかったドナー家族を含めカンセリングを含め長期的にフォローする機関が別に必要。
  • この機関には、ドナー家族や移植者もボランティアとして協力出来るようにする。
  • 国によるドナーの顕彰と慰霊祭を行う必要がある。

提供施設関係

  • 来年7月の施行に向けガイドライン、施行マニュアルの早急な作成と関係機関への周知が必要。
  • 施行までに小児判定基準の作成
  • 救急医療体制の整備
  • 小児救急の体制整備(小児臓器提供施設の認定)
  • メディカルコンサルタントや脳死判定チームのサポートのシステム化(ボランティアでない体制)
  • その後の提供施設拡大、脳死臓器提供者の搬送の検討
  • 提供施設への啓発をネットワークと都道府県が連携して行う必要がある。

今後の臓器提供の増加は?

  • 平成20年度の心停止後腎臓提供の109件の内、4類型病院で脳死判定後にカニュレーションをされたのが51件あり、これらは脳死提供に移行する可能性が高い。
  • 心停止後腎提供の51/109=46.8%が脳死臓器提供になると予測できる。つまり臓器提供が20年度と同程度とすると、平成22年度の脳死臓器提供は13+51=64件程度になると予測できる。即ち、脳死臓器提供は、約5倍になると予想される。
  • 新法では、運転免許証や保険証の裏面に意思表示欄を設けるので、その効果も期待できる 
  • 22年度は、施行が半年以上が経過していることと、制度が変わった直後から増加に転じることは難しい。恐らく半年くらい掛かると予測される。
  • 23年度は、脳死臓器提供90例、心停止提供110例を予測している。
  • 24年度の目標は、総数250例(献腎数500例)

移植施設の体制整備

  • 平成23年には、脳死移植では平均5臓器の移植があるとすると、心停止下も含める年間650例程度の移植が行われることになる。
  •  同日に2件以上の臓器提供があったり、同一施設で4件以上の移植施術が行われることが予想される。これに移植施設が対応できるか?
  • 現移植施設の体制整備と移植施設の増加が必要。
  • 臓器提供の増加に伴い、待機期間は短縮されるが、臓器移植希望者も増加するので、待機患者は増加する。

国民への情報提供と普及啓発

  • 優先提供に関する情報提供(ガイドラインが決まり次第)
  • 提供先指定の範囲、レシピエントのネットワーク登録、年齢制限等
  • 一般の普及啓発
  • ネットワークは、より公平さが求められ、臓器移植を推進する普及啓発は、行いがたい。
  • アメリカのキドニーファンデーションのような組織が必要
  • 小・中・高での学校教育

今後の腎臓移植の課題

  • 腎臓では、透析患者は、28万人を超えたが高齢者が多く、今後登録者が増えても3万人程度では?
  • 選択基準の見直しが必要
  •  例えば、待機年数の点数比率を下げる、より地域性を高めるなど。
  • 定期的な事前検診によるチェック強化(施設登録とフォローの強化)
  • 移植施設の体制を強化し、成績向上を図る。
  • 献腎移植を3年後に年間500例、6年後に千例、生体と合わせた総数三千例を目指す。
  • 即ち移植希望者3万人に対し年間その10分の1の腎移植数を目指す。


お問い合せ先:NPO日本移植者協議会
〒530-0054 大阪市北区南森町2-3-20 プロフォートビル507号
TEL:06-6360-1180・FAX:06-6360-1126
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